コニファ・マメ知識:ランチェスターの法則
ランチェスターの法則
ランチェスターの法則は、もともと軍事目的(戦闘の数理モデル)として考案され、1914年にフレデリック・ランチェスターによって発表されたものです。後に「競争の法則」と呼ばれ、日本ではビジネス理論として応用されるようになりました。
デフレ不況、少子高齢化、格差社会の浸透などにより、企業の生き残り競争は熾烈を極めていますが、その生き残りの方策として、ランチェスターの法則が注目を集めています。
第1法則と第2法則
ランチェスターの法則は、第1法則と第2法則があります。
第1法則
戦場は限られた狭い範囲で、一人が一人に攻撃を加える戦闘の数理モデル。
第1法則の前提条件
- 互いの部隊は、相手の射程距離内にいる。
- 戦力は兵力(兵員数)と武器の性能によって決まっている。戦闘の効果は異なる。
- 相手方のダメージは解らない。
- 互いに相手の部隊が展開している地形的情報がない。互いの部隊の残存兵力の展開は不確定。
AS0は、A軍の初期の兵員数
AStは、一定の時間経過後の残存するA軍の兵員数
BS0は、B軍の初期の兵員数
BStは、一定の時間経過後の残存するB軍の兵員数
Eは、武器性能比=(B軍の武器性能)÷(A軍の武器性能)
戦闘力=武器性能×兵員数
A軍の初期の兵員数が10、B軍の初期の兵員数が7で、武器性能比が1(同じ)なら、 A軍の残存兵員数が3になったところで、B軍の残存兵員数は0になり、A軍の勝利となります。
第2法則
二次方程式の戦闘モデル。銃器、火砲、戦闘車両、航空機が発達した広域な戦闘で、一人が多数に対して攻撃が可能な戦闘の数理モデル。
第2法則が適合する前提条件
- 互いの部隊は、相手の射程距離内にいる。
- 戦力は兵員数と武器の性能によって決まっている。戦闘の効果は異なる。
- 残存している部隊は互いにあらゆる時点で、相手の部隊が配置されている地点についての情報を持つ(敵情について正確に把握し、無駄のない適切な攻撃が可能)。
- 戦闘時の部隊の攻撃は互いに相手の残存する部隊に均等に分配する。
第1法則と同じく。A軍の初期の兵員数が10、B軍の初期の兵員数が7で、武器性能比が1(同じ)なら、兵力を二乗しますので、実際の戦力差は100-49=51、A軍の残存兵員数が7になったところで、B軍の残存兵員数は0になり、A軍の勝利となります
二つの法則を比べると、第2法則のほうが兵員数の優位性が高いことが分かります。
ランチェスターの法則のビジネスへの応用
ランチェスターの法則をビジネス戦略としてとらえた場合、軍の勝利条件である残存兵員数は、市場シェア(占有率)、売上高、営業成績といったものに置き換えられます。
戦力にうち、兵力(兵員数)はそのままビジネスマンの数になりますが、武器の性能にあたるのは、技術力、研究開発力、商品開発力、流通チャンネル、宣伝力、宣伝拠点などになります
強者の戦略と弱者の戦略
同じ業界内にあって、大企業に対して中小の企業の対決の構図では、スケールメリットを生かした大企業が圧倒的に有利と思われがちですが、ランチェスターの戦略では、中小の企業の有利性を導きだすことが可能です。
大企業であっても、その部門や状況、地域性などで市場シェアを細分化してみると、必ずしも大企業が強者(市場シェア1位)であるとは限りません。また、同じ企業内でも細分化された部門、地域により、強者と弱者(市場シェア2位以下)が混在します。
強者が、細分化された市場のシェア1位を維持し、常に強者であり続けている理由を分析すると、圧倒的な多数の兵員、高い武器性能のどちらか、または両方が確認できます。強者が、シェア争いに追随してくる2位以下の弱者との対決に勝利し、市場シェアトップの地位の独走を図りたい場合、ランチェスターの第2法則に支配される戦い(広域戦、確率戦)を想定した戦略を選ぶことにより、有利な展開が期待できます。
これを逆に言えば、弱者の立場から強者と対決する場合、ランチェスターの第1法則に支配される戦い(局地戦、接近戦)を想定した戦略を選べば良いことになります。
具体的には、
- 強者の扱っていない商品やサービスに力を入れる。
- 強者が想定していない顧客層に狙いをしぼる。
- 強者が素通りした地域、リサーチして不可と判定したらしい地域を洗い直す。
などがあげられます。
ランチェスターの法則は、現実世界の事象を数式に置き換えて表現した数理モデルであり、しかも戦闘を有利に進めるためのものであるため、ビジネスに応用する場合、前提や適合する要素を具体的な事象の何に相当させるのかなど難しいところがあります。後に不確定要素を加えた戦闘数理モデルなども考案されたようですが、いずれにしても現実の事象を大幅に簡略化したものであることをふまえる必要がありそうです。
※引用、参考:
・ウィキペディア・ランチェスターの法則
・すばる舍刊 竹端隆司氏著『「ランチェスター戦略」がイチからわかる本』