コニファ・マメ知識:平成25年版 情報通信白書から・「スマートICT」
「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか
新たなICTトレンド=「スマートICT」が生み出す日本の元気と成長
(1)ICTと経済成長 -その基本的枠組-
ICT投資による経済成長効果と一般投資による経済成長効果の比較(研究事例の紹介)
ICT投資の経済成長への寄与については、2000年初頭のいわゆる「ITエコノミー論」以降、国内外ともに研究成果が蓄積されているが、ここでは、最新の研究事例として、ICT投資が増加した場合に経済成長にどのように影響を及ぼすのか、他の投資が増加した場合と比較して顕著な差が見られるのかについて、九州大学の篠教授と神奈川大学の飯塚准教授らが行ったマクロ計量モデルによるシミュレーションの分析結果を紹介する。
(ア)シミュレーションの前提
同研究では、具体的にはICT投資が増加するシナリオのシミュレーションを行うとともに、ICT投資は増加せずにICT以外の一般投資だけが同じ程度拡大する場合のシミュレーションも併せて実施し、両者における乗数効果の違いが比較されている。。
前者では、2つのケースのシミュレーションが行われており、第1のケースは、2013年度以降のICT投資比率が過去のトレンドと同じペースで上昇(前年差0.59%ポイントの上昇)をする場合(以下「シミュレーション1」という。)、第2のケースは、かつてICT投資が増加した時期(1995年度から2000年度)を参考に、ICT投資比率が過去のトレンドの2倍のペースで上昇(前年差1.18%ポイントの上昇)をする場合(以下「シミュレーション2」という。)が想定されている。なお、これらのシミュレーションでは、一般投資はベースラインで変わらない中で、ICT投資が追加されることでICT投資比率が上昇する前提で試算が行われている。
後者でも2つのケースでシミュレーションを行っている。第1のケースはシミュレーション1で増加したICT投資額と同額の一般投資額を増加させ、その代わりにICT投資額は一定で増加しない(よって、ICT投資比率は低下することになる。)場合、第2のケースはシミュレーション2で増加したICT投資額と同額の一般投資額を増加させる場合が想定されている。
(イ)シミュレーションの結果
A ICT投資のみが増加するケース
同研究によるシミュレーションの結果は以下のとおりである。
シミュレーション1では、ICT投資が2013年度に0.5兆円、2014年度に1.1兆円、2015年度に1.7兆円増加し、実質GDPは2013年度に0.7兆円、2014年度に1.8兆円、2015年度に3.3兆円ほど増加するとされる。
また、シミュレーション2のICT投資は1の2倍増加するため、実質GDPは2013年度に1.3兆円、2014年度に3.7兆円、2015年度に6.7兆円ほど増加するとされる。
ICT投資が増加することにより実質GDPが増加する理由は、(1)日本経済の生産性が高まり、先行きの経済成長に対する企業経営者の期待を刺激し、それがさらに企業の設備投資を高める、(2)ICT投資比率の高まりが企業の利益率を上昇させ、設備投資や賃金の高まりに波及する―などが指摘されている。
B 一般投資のみが増加するケース
他方、ICT投資以外の一般投資をシミュレーション1及び2におけるICT投資の増加額と同額だけ増加させた場合の分析結果によると、前者では、実質GDPは2013年度に0.6兆円、2014年度に1.3兆円、2015年度に2.0兆円ほど増加し、後者では、実質GDPは2013年度に1.1兆円、2014年度に2.6兆円、2015年度に4.0兆円ほど増加するとの結果が報告されている。同研究では、一般投資を増加させた場合でも、投資の増加額以上に実質GDPを押し上げる効果はあるが、ICT投資と比べるとその程度は低いと結論づけられている
2013年
|
2014年
|
2015年
|
|
ICT投資 |
1.219
|
1.637
|
1.984
|
一般投資(ICT投資を除く) |
1.040
|
1.152
|
1.190
|
C 両シナリオにおける乗数効果
同研究では、ICT投資が増加した場合と一般投資が増加した場合のシミュレーションで得られた乗数効果も比較されている。それによると、ICT投資の乗数効果は、2013年度で1.219、2014年度で1.637、2015年度には1.984となる一方、一般投資の乗数効果は、2013年度で1.040、2014年度で1.152、2015年度で1.190にとどまっており、ICTへの投資が成長を増加させる効果がより高いことが読み取れる。